映画『暗くなるまで待って』―光を失った彼女が照らす、オードリー・ヘプバーン迫真の極上サスペンス
1967年に公開されたアメリカの映画『暗くなるまで待って』(原題:Wait Until Dark)は、主演オードリー・ヘプバーンが盲目の女性という難役に挑んだサスペンス・スリラー。視覚を持たない主人公が、命を狙われる極限状況の中で見せる勇気と機転に、観る者は息をのむような緊張と、深い感動を味わうことになります。
作品情報:
『暗くなるまで待って』(原題:Wait Until Dark)(1967年公開)
出演:オードリー・ヘプバーン、アラン・アーキン、リチャード・クレンナ、エフレム・ジンバリスト・Jr/監督: テレンス・ヤング
あらすじ
ニューヨークの静かなアパートで暮らす、盲目の女性スージー・ヘンドリクス(オードリー・ヘプバーン)。写真家の夫サムと穏やかな生活を送っていた彼女のもとに、ある日、見知らぬ男たちが現れる。
彼らの目的は、サムが空港でうっかり持ち帰ってしまった人形。その人形にはヘロインが隠されていた。男たちは、巧妙な手口でスージーを騙し、脅しながら人形を探そうとする。
だが、視力を持たない彼女は、鋭い聴覚と冷静な頭脳で彼らの罠に気づき始める──そして、夫の帰宅を待つ間、スージーは自らの身を守るため、「暗闇」という唯一の味方を武器に立ち向かうことを決意する。
見どころ
① 計算され尽くした緊張感
本作最大の魅力は、サスペンス映画としての完成度の高さにあります。物語はほぼ全編をスージーのアパート内で展開。その閉ざされた空間の中で、徐々に明らかになる「正体不明の敵」との知的戦が繰り広げられます。
特筆すべきは、終盤の“完全な暗闇”での攻防シーン。照明が落とされ、観客までもがスージーと同じく「目が見えない状態」に置かれることで、彼女の恐怖がダイレクトに伝わってきます。まさに「音」と「気配」だけで構成されたシーンは、今なお映画史に残る名場面です。
② 観客を巻き込む“体験型”の映画
『暗くなるまで待って』は、観るというより「体験する」映画です。観客はスージーと同じ立場で、物音に耳を澄まし、静けさの中に潜む気配に神経を尖らせます。
映画館で公開された当時、一部の劇場では「クライマックス直前に劇場の照明を可能な限り暗くする」という演出まで行われたほど。その臨場感の演出は、50年以上経った今でも語り草になっています。
オードリー・ヘプバーンの役柄
本作でオードリー・ヘプバーンが演じたのは、視覚を失った女性スージー・ヘンドリクス。それまでのロマンティック・コメディや優雅なプリンセス役とは一線を画す、重く深い演技が要求される難役です。
スージーは“弱さ”を背負ったキャラクターでありながら、終盤では「自分の身は自分で守る」という芯の強さを見せます。オードリー・ヘプバーンは、視力を失ってもなお聡明で勇敢な女性像を、静かな抑制の中で体現しています。
この演技により、彼女はアカデミー賞主演女優賞にノミネート。女優としての幅広さと成熟を証明した作品でもあります。
オードリー・ヘプバーンの衣装
『暗くなるまで待って』において、オードリー・ヘプバーンの衣装は機能性とシンプルさを重視したもの。ローマやパリを舞台に華やかなファッションを披露していた彼女ですが、本作では落ち着いた色調とシンプルなカットの衣服が中心です。
・ミリタリーコート
・ニット・タートルネック
・シンプルなスカート
・シンプルな手袋、マフラー
など、視覚障がい者としてのリアリティを重視しながら、オードリー・ヘプバーン特有の清潔感と品の良さが漂っています。
地味で目立たない衣装でありながら、オードリー・ヘプバーンの“存在そのもの”がファッションとなる──そんな魅力を感じられる作品です。
オードリー・ヘプバーンの見どころ
① 視覚に頼らない演技の深み
オードリー・ヘプバーンは本作の役作りのために、実際の盲学校を訪れ、視覚障がい者の暮らしや動作を丹念に観察・学習したと言われています。その成果は、彼女の繊細な手の動きや、空間を探る所作、耳を澄ませる姿勢にしっかりと表れています。
特に、部屋の中を「記憶と触覚」だけで移動するシーンには、オードリー・ヘプバーンの誠実な演技力が凝縮されています。
② 恐怖に打ち勝つ勇気の表現
映画の後半、暗闇を武器に敵と対峙するスージーの姿は、“か弱い女性”のイメージを覆すような強さに満ちています。武器を持たず、光すら持たない彼女が、知恵と覚悟だけで状況を打開する姿に心を打たれた観客も多いはずです。
この「弱さの中の強さ」を演じきったオードリー・ヘプバーンの姿こそ、本作の最大の見どころであり、彼女の女優としての真価が最も発揮された瞬間でもあります。
まとめ
『暗くなるまで待って』は、オードリー・ヘプバーンの代表作の中でも、ひときわ異彩を放つサスペンス映画。ファッションアイコンや恋愛映画のミューズとしてだけでなく、本格的な演技派女優としての彼女の姿に触れることができる貴重な一本です。
極限状態の中で、自分を信じ、知恵と勇気で困難に立ち向かうスージーの姿に、今を生きる私たちも大切な何かを受け取ることができるでしょう。
光がなくても、人は前に進める。『暗くなるまで待って』は、そのことを静かに、けれど力強く教えてくれる作品です。